MSI

「海に出る準備が出来ている家」がコンセプトでした。

マリンスポーツが趣味のクライアントが選んだのは、東西22m、南北7mの細長い形で、東側は遊歩道を挟んで博多湾に面した敷地でした。海原きらめきと能古島や松原の自然あふれる景観や遠くに福岡市中心街とアイランドシティの都市景観を見渡す素晴らしい立地でした。同時に潮まじりの強い風を受ける厳しい環境でもありました。南北側の隣家が迫っていたこともあり、海を望む東面以外は守りを基本とした堅牢で開口を極力控えることが当初よりのイメージでした。マリンスポーツの準備や後片付けをするシーサイドポーチと西前面道路側にある駐車スペースとアプローチに挟まれる形で、敷地の中央に居住空間を配置しました。細長い敷地はおのずと東西の軸線を持ち、それに従って配置・平面計画を行いました。

クライアントの生活のイメージが整理されていたこともあり、計画では「海に出る・仕事に出る」ために1階は「衣・納」を、2階は「食・寛」を中心とした機能に明確に分けました。1階を中心にした様々な収納空間は延床面積の35%にもなり、この住宅の特徴となっています。冷暖房は小屋裏に配置した1台のACのみによる全館空調を試みました。リビングに設けたペレットストーブは視覚を含め、補助暖房として機能します。家型に穿った眺望を楽しむリビング東側の窓は、外部シェードにより遮光を行います。デッキテラスとそこに架けられたタープは、テラスでの活動を楽しむ際の日除けである共に、この家のそしてクライアントのライフスタイルの象徴としてデザインしました。

日差しの移ろいとともに刻々とその情景を変える博多湾の風景を楽しむこの家は、「海に出る・仕事に出る」気持ちのアイドリングと共に、夕暮れに似た暖かさと豊かさを感じる器となっています。

 

所在地:福岡県福岡市
敷地面積:153.16㎡
建築面積:74.41㎡
延床面積:132.04㎡
主体構造:木造
階数:地上2階建て
写真:YASHIRO PHOTO OFFICE

MNH

養護老人ホームの建て替え計画です。
養護老人ホームは、環境的な理由や経済的に困難な高齢者が自立した日常生活を送り、社会活動に参加できるように支援する施設です。
既存の施設はRC造平屋でしたが、構造・設備共に老朽化が進んだことやニーズに合わない室構成であったこと、また系列の施設から離れていたことなどが移転建て替えの要因でした。
同じ社会福祉法人の特別養護老人ホームに近接した位置に求められた新しい敷地は、東側前面道路に25m接し、東西が75mある奥行きの深い敷地でした。ここに50の個室と共用・管理室を備え、畑であった軟弱な地盤を考慮した木造2階建て、福祉施設に求められる準耐火構造の建物を計画しました。
「さりげなさの中に生き甲斐を」がクライアントからのコンセプトでした。
近隣は関連施設である5階建ての病院はあるものの、新旧の住宅が周りに建つ環境でした。そのことを考慮して、ボリューム、外観、色彩、テクスチャーに隣接の住宅との親和性の高いたたずまいをめざしました。平屋のパーゴラを建物周囲に配して内外から緑を身近に感じることで、屋内・屋外・敷地外の連続性に配慮しています。平面構成は、入居者の利便と感染症対策に隔離が容易でユニット化できるように、中央に共用・管理部門を設け、両翼に各居室を配置しました。
この施設が施設利用者にとっての我が家となり、パーゴラや植栽の緑が茂り、昔からそこにあったような、近隣からも身近な存在になることを期待しています。

 

所在地:熊本県上益城郡
敷地面積:1901.28㎡
建築面積:866.41㎡
延床面積:1604.3㎡
主体構造:木造
階数:地上2階建て
写真:YASHIRO PHOTO OFFICE

AAE

マンションのフルリノベーションの計画です。

クライアントは平日は佐賀県内で勤務し、週末を福岡市内で暮らす2拠点生活を行っていました。当初私たちも協力をして床面積の広い物件を探しておりましたが、最終的に所有物件のフルリノベーションに至りました。12階建てマンションの7階に位置し約60㎡の物件は、1フロア3区画の西側であったため北・南・西側に窓があり、南側にリビング・ダイニング、北側に小さい居室、中央エリアに設備系の部屋を配した標準的なプランでした。

限られた範囲、さらに水回りやパイプシャフトの位置が決まっている中で、人の動き(動線)をテーマに様々な可能性を探った結果、北側にリビングダイニング、南側に大きな寝室を配し、中央のキッチンエリアと洗面浴室エリアの各々の動線により全体に回遊性を持ち、最も廊下面積の小さいプランが採用されました。

リビング・ダイニング・キッチンは中間期には玄関を含めた広いスペースとなります。夏季・冬季は建具壁により玄関スペースと間仕切ることで空調環境を保つことができます。ここは室内の配色・照明ともに落ち着いた雰囲気とテクスチャーの仕上げを施しました。利用時の必要に応じて建具壁で間仕切ることができる洗面・浴室・WCは、廊下を介してリビング・ダイニング・キッチンと一体化した空間です。明るさを抑えたこれらの空間の奥にある寝室は、リビング・ダイニングを超える広さを持ち、南向きの明るく光にあふれた空間で、他の部屋との差別化を図っています。

今後、マンションのリノベーションはますます増えていくことでしょう。今回の計画を通して、一つの方向性を模索しています。

 

所在地:福岡県福岡市
延床面積:62.7㎡
主体構造:RC造
写真:YASHIRO PHOTO OFFICE

NOI

クライアントは、飲食店を営みながら生活をしていく棲家を求め、土地探しをしていた50代のご夫婦でした。
候補のひとつにあった今回の敷地は、福岡近郊の旧宿場町にあり、東・西・北の三方を建物に囲まれた間口5m、奥行10mの狭小地です。
1階を店舗、2階をロフト付のワンルームとする私たちの提案を受けて、この土地の購入を決められました。
本計画では「ひく」「ひらく」「ひろげる」の3つを課題解決へのキーワードとしました。

 

課題1

三方を囲む隣地建物は境界に近接して建てられ、閉塞感があります
>アプローチに「ひく(き)」をつくり、狭小地の窮屈さを和らげます

 

課題2

変化する生活スタイルに対応できるお店のあり方
>防火地域でありながらおおきく「ひらく」木製の引戸により、内外が柔らかくつながり、地域に「ひらき」ます

 

課題3

狭小のなかで生活の場を確保する
>階段で容易に昇降できる開放的なロフトは、生活空間を立体的に「ひろげる」ことができます

 

 

所在地:福岡県糸島市
敷地面積:54.55㎡
建築面積:26.49㎡
延床面積:50.37㎡
主体構造:木造
階数:地上2階建て
写真:YASHIRO PHOTO OFFICE

SMH

S.M.Hは1961(S36)年に門司市初の精神科病院として開設され、現在は精神科急性期治療病棟、精神療養病棟、認知症治療病棟のある191床を有する病院です。

本建築はその外来管理棟の増改築計画です。

敷地は福岡県北九州市門司区にあり、九州自動車道路の新門司インターより、広い県道(新門司港大里線)を新門司港方面へ500mほど進んだ、農地と里山とまばらな民家が点在する市街化調整区域に位置しています。既存外来管理棟はこの県道に面し、背面に数回の増築を経た病棟が連なっていました。既存外来管理棟は、1988(S63)年に竣工し2006(H18)年にエントランス及びバックヤードを増築した、延床面積1020㎡、3階建、RC造一部S造(増築部)の建物でした。

コンセプトを「新しい印象を創るーけしきの更新」とし、以下の方針を提案しました。

(「けしき(景色・気色)」とは風景・風情・様子・きざしの意)

心に残りにくい近隣景観、雑然とした印象を受けた既存建物、高速で通り過ぎる環境、これら状況への答えとして「けしきの更新」を目指しました。

暗い鉄紺(てつこん)色のモノリシックなボリュームがキャンチレバーにより浮遊しています。この外観は周辺環境から際立ち、病院の印象の統合を意図しました。その壁面を覆う白銀色のアルミエキスパンドメタルのベールは、空や空気の色、さらに視点の移動により刻々と表情が変化し、環境との同化を図っています。またこのベールは背面の照明により、華やかで幻想的な印象に変化します。このベールは道路側の西・南面に設けられ、日射を制御する機能も併せ持っています。

本計画と既存棟との間には背面の里山の飛び地を模した森(中庭)を設け、このまとまった緑がアプローチのアイストップとなって来院者をエントランスへ導びきます。

内部はシンプルかつ回遊性があり、どこからも目的地が分かる視認性の高い計画としました。エントランスから直進した正面の壁には銀箔を貼り上げ、既存吹抜を利用し上部より不織布スクリーンを吊り下げました。箔やスクリーン、またエントランスから待合へ続く不揃いな天井ルーバーには、中庭や吹き抜けから入る自然光が鈍く反射します。水面の揺らぎのようなゆらゆらとした印象に、水の底に沈んだ静謐さが感じられる空間となりました。四季のうつろいが間近に見える中庭に開いた待合は、診療待機中の緊張を穏やかなものかえます。増築棟2階の管理部門に設けたテラスは、森のような中庭を挟んで病棟と向き合うバッファーゾーンとなっています。

所在地:福岡県北九州市
敷地面積:14430.05㎡
建築面積:7419.96㎡(増築部:264.92㎡)
延床面積:14096.05㎡(増築部:328.96㎡)
主体構造:鉄骨造
階数:地上2階建て
写真:YASHIRO PHOTO OFFICE

MMH

熊本地震により被災した病院の建て替え復興計画

所在地:熊本県益城町
敷地面積:14627.5㎡
建築面積:2407.91㎡
延床面積:11615.01㎡
主体構造:鉄骨造
階数:6階建

KIS

熊本地震により被災した稲荷神社社務所の建て替え復興計画

所在地:熊本市
敷地面積:1938㎡
建築面積:97.2㎡
延床面積:118.8㎡
主体構造:鉄骨造
階数:2階建

SKC

SKCは税理士法人事務所の改装計画です。業務の拡大と再編のために事務所を移転することになり、賃貸物件ではありますがフルリノベーションすることになりました。エントランスホールは円形の平面の中に受付接客カウンター、待合ベンチを設け、視線の焦点にアクアリュウムを配置しました。そこから続くリフレッシュエリアはスタッフや来訪者のくつろげる空間としました。1階には他にミーティングルーム等の来訪者との接点になる空間があり、2階は広い執務空間になっています。各々の部屋の壁にアクセントカラーを施し、元気の出るオフィスをめざしました。

  • 所在地:福岡県
  • 延床面積:573.6㎡
  • 主体構造:鉄骨造
  • 階数:地上2階建

NMC

N.M.Cは内科・小児科クリニックとして、先代よりこの街の医療を担ってきました。
古い住宅街の中の幹線でなく狭く曲った道路沿いにある立地は、口コミでの患者さんに来ていただける良いものであるようです。この地にふさわしい、狭い道路を抜けたところにぽっかりあいた日溜りのような空間をイメージして計画が始まりました。

敷地外に既存の駐車場があることから、建物を敷地の南側に寄せ、前面道路側にオープンスペースを設け車寄せとしました。敷地いっぱいを覆うような大きな屋根が日頃より弱くなった体や心を迎え入れ包み込みます。内外を分けるコンクリートの壁は屋根を支えず自立し、屋根との間にできた隙間が四周をまわる窓になっています。この窓は、街との関係をつくりつつ内部に必要な明るさを得るために、また夜間はクリニックから漏れる光が常夜灯のように町に安心感を与えるために存在します。1階は全てが診療スペースとなっており、中庭を中心にした回遊式の平面計画となっています。待合室・キッズコーナーには中空に浮いたプレイスペースがあります。見守りの出来る囲われた空間は子供達の基地であり、地域に開いた窓となっています。スタッフスペースのある2階は診察スペースのある1階とは意図的に切りはなした空間ではありますが、中庭の緑をふところにいだいた計画とすることでお互いの気配を感じあえる構成にしました。植栽は街とクリニック、1階と2階が程良い距離感となるために施されています。

  • 所在地:福岡県北九州市
  • 敷地面積:474.29㎡
  • 建築面積:244.97㎡
  • 延床面積:273.48㎡
  • 主体構造:鉄骨造
  • 階数:地上2階建
  • 写真:岡本 公二

STE

仕事をリタイヤされたご夫婦のための住宅です。敷地が第1種低層住居専用地域であったため、容積率・建蔽率の制限が厳しく、当初は新築を諦めていらっしゃいました。近年、戸建住環境形成地区に指定され、一定条件を満たすことで容積率・建蔽率に余裕が生まれることが分かり、建て替えに計画がシフトしました。屋上・壁面の緑化、温熱環境への配慮、ご夫婦2人のための最適な省エネルギー装置など色々なテーマをいただき、話し合い、提案し、変更や削除の繰り返しから今の形や空間に落ち着きました。新築時は内部の軟らかい質感に比べ、外観は打ち放しコンクリートによる硬い印象が目立っていました。1年を過ぎた現在は周囲の緑が育ち、さらにこれからナツヅタが壁面を覆い、馴染みやすい風貌に徐々に変わっていく予定です。

  • 所在地:福岡県
  • 敷地面積:181.22㎡
  • 建築面積:76.23㎡
  • 延床面積:144.74㎡
  • 主体構造:RC造
  • 階数:地上2階建